みそまめ
旦那「おおい、定吉、あの台所へ行ってな、みそ豆が煮えてるかどうか見てきておくれ。」
定吉「へえい、台所のみそ豆、みそ豆と、あ、これかな、蓋を、わ、すごい湯気だな、あああ、
いい匂いだ、どれ、少し食べてみようかな、このお皿に、ふっ、うん、旨い、ふっ、旨い、旨い。」
旦那「おおい、定吉、みそ豆は煮えているのかい。」
定吉「へぇ、おいしく煮えてます。」
旦那「食べてやがる、ええ、誰が食べろと言った、意地の汚いやつだ、あのな、お向こうの佐藤さんの
うちへ行ってな、みそ豆が煮えておりますからと、遊びに来るように言ってきなさい、本当に
意地の汚いやつだ、とは言うものの、本当にうまく煮えてるかどうか見てみたいもんだな、どおれ、
ほほう、どれ、このお皿に、ふっ、うん、旨い、ふっ、旨い、旨い、もう少しお替わりっと、
まてよ、こんな事をしているところへなぁ、定吉が帰ってきて、なんだ、旦那だって食べてる
じゃありませんかぁ、なんてぇとなぁ、奉公人のしめしがつかないからなぁ、どこか一人で食べ
られる所っと、二階はなぁ、いつ定吉が上がってこないとも限らないし、どっか、ふふふ、
あったあった、お便所お便所、あすこなら一人で満員だからな、そうと決まったら、もう少し盛って、
ふふふ、ここなら大丈夫、旨い、旨いけど臭いな、旨臭いってぇやつだ、ふふふ。」
定吉「旦那、行ってきました、あのお向かいの佐藤さん、すぐ来るそうです、あれ、旦那、旦那、
もう人に用事を言いつけて、自分はいなくなっちゃうんだから、とは言うものの、さっきのみそ豆、
美味しかったな、鬼のいぬ間に、ふふふ、うん、旨い、旨い、待てよ、こんな事をしているところ
をなぁ、旦那にみつかったら、また、つまみ食いをしている、なんてんでなぁ、怒られちゃうから、
どっか一人で食べられる所っと、二階はなぁ、いつ旦那が上がってこないとも限らないし、
どっか、ふふふ、あった、あった、お便所お便所、あすこなら一人で満員だからな、
そうと決まったら、もう少し盛って、ふふふ、ああ、旦那。」
旦那「あ、定吉、何しに来た。」
定吉「あの、えっと、お替わりを持ってきました。」
ではまた明日。
上方の落語 桂枝雀のネタから
上方の落語でございます。お題は風有働うといいますが、、これ桂枝雀が演じるとものすごく面白いんですわ。
上方落語の面白さもそうなんですが、商人の町大阪の活気を感じることと、頓智の面白さをぜひ感じ取ってください。
ここから
しばらくのあいだ、お付き合いを願います。
「ひと声とみ声は呼ばぬ卵売り」面白いことが言ぅてございます。ただ今はもぉそんなことはございませんが、ひと昔前はみな商人(あきんど)さんが物を売りにまいったのだございますね。
前と後ろのカゴに、それぞれの品を入れましてね、これを朸(おぉこ)・天秤棒といぅやつでこぉ差し担いにいたします。立て前・売り声といぅものを上げながら売りにまいりました。これがどぉいぅもんですか、ふた声といぅよぉなことに決まっておりましたんやそぉですね。
卵屋さん「たまごぉ~、たまご」……、ふた声やそぉで、面白いもんですねぇ……「たまごぉ~、たまご」ふた声でございます。初めの「たまご」で終わるかなと思うと、これが終わりません。必ず最後に「たまごッ」といぅのが付くのでございます「た……」何べんやってもおんなじでございますが、面白いもんでございますね。
ひと声とみ声では具合が悪いんですね。ひと声「たまごぉ~ッ!」「どぉれぇ~」玄関番が出てまいりますし、また、み声でも具合が悪い
「え、たまごたまごたまご。たまごたまごたまご」誰か後ろから追いかけて来るのっか
知らん。ふた声に限ったもんやそぉでございます。
「はなやぁ~、はな」花屋さんでございます、これもふた声でございます。綺麗ぇなお商売でございますね。
「だいこ、だいこ。だいこ、だいこ」大根屋
さんでございますが、これもふた声ですが大根を「だいこん」とは申しません「だいこ」と申しますね。
「だいこ、だいこ。だいこ、だいこ」「ん」の字を抜いております。これがどこへ行ったかと思いますといぅと、あのゴボウのほぉへ回ってます。
ゴボウを「ごぼう」とは申しません「ご~んぼ、ごんぼ。ご~んぼ、ごんぼ」ゴボウのことは「ごんぼ」と申します。
大根の「ん」の字がゴボウのほぉへ、お友だちでございますから、応援に回っているよぉなことですねぇ。なぜかと申しまするにゴボウといぅのは売り声に、それだけではなりにくいねやそぉです。
「ごぼ、ごぼ……。ごぼ、ごぼ。ごぼごぼ」沈んでしまいますので具合が悪い。あの、四季によっても違います。夏の売り声といぅものはなんとのぉボンヤリといたしまして眠気を催す、といぅのが夏の売り声でございます。
「よぉ~しや、すだ~れはいりまへ~ん。ござやぁ~、ねご~ざぁ~」寝茣蓙やみな、半分寝てしもてますが。
代表的なものはと申しますと金魚屋さんでございます。大和郡山のほぉから来るんやそぉでございますが、前と後ろのタライに一杯金魚を入れましてね、それを朸・天秤棒といぅやつで差し担いをいたします。
「きんぎょ~えぇ~、きんぎょ~。きんぎょ~えぇ~、きんぎょ~……」声を自慢に売りにまいります夏の風物詩、無くてはならんもんでございますなぁ。
あの立て前でもって、前と後ろの水を治めているのやそぉでございます、タライの水をね。タライには一杯水が入っているので、これえぇ加減に歩きますといぅと水がガブッて表へあふれます。これをあの立て前でもって抑えているのやそぉでございます。
「ンぎょ~え~、きんぎょ~」前と後ろ水が(両手を広げてユラユラ)治まります。中で金魚が(両手を前後に広げてユラユラ)……
夏の炎天下、お日ぃさんが「カァ~ッ(手を頭の上にかざしヒラヒラ)」照りつけております。家ん中は生暖かぁ~いところへさして、涼しぃ風がサァ~ッと吹くと、風鈴いがチリチリチリ。
それでのぉても眠とぉなってるところへさして、この金魚屋さんの声が遠くのほぉから聞こえてまいりますといぅと、自然と頭が細こぉ前後に動いて、終いにはゴトォ~ッと寝てしもたそぉですねぇ。
それでのぉても眠とぉなってるところへさして、遠くのほぉから「きんぎょ~え~、きんぎょぉ~」(体が前後にユラユラ)「きんぎょ~え~、きんぎょぉ~」(やがて揺れが大きくなり、最後には高座の床にデボチンを音がするほどゴツッ!)寝てしまいます。
これを起こしに来るのが氷屋さんです、カチワリ「え、かちわりやッ、かちわりやッ」喧して寝てられしません。反対にやったらおかしなもんやそぉですねぇ、金魚屋さんが氷屋さんみたいに「わっ、きんぎょやッ、きんぎょやッ」金魚みな、鼻ゴツンゴツン、死んでしまいますが。
また氷屋さんが金魚屋さんのよぉにノンビリやっても具合の悪いもんやそぉで「こぉ~りぃ~やぁ~、こぉりぃ~。冷ぇ~たい~、こぉりぃ~」「氷屋、一杯おくれんか」「あ~か~ん~、こぉりぃ~融けたぁ~」みな融けてしまいます。
これと反対に、冬の売り声の代表的なものはと申しますといぅとうどん屋
さんでございます。真冬、真夜中、北風がヒュ、ヒュ~ッ……。
凍て入るよぉな寒ぶぅい晩に遠くのほぉから、このうどん屋さんの声が聞こえてまいりますといぅと、寂しぃいよぉな、悲しぃいよぉな、そしてどっか暖ったかぁ~いよぉな、なんとも言えん気持ちがいたしましたそぉで、
♪うどぉ~んえぇ~ ♪そぉ~やぁう~ッ
●あッ寒ぶぅ~、寒ぶいなぁ。冷えると思てたがこんな冷(ちめ)となるとは思わなんだなぁ……、ぎょ~さん星さん出たはるなぁ……、♪うどぉ~んえぇ~、そぉ~やぁう~ッ♪
●もぉ皆、お布団の中でヌクヌクと寝たはんねんやろなぁ。寒い晩はうどんがよぉ売れるちゅうねんけど、こない寒いと肝心の人間が通らんよってなぁ、売れるも売れんもないわ。
★子供衆(こども)、早いことしなはれや。早いことせな、うどん屋さん行ってしまうで。早いことしなはれや。
●ありがたいこっちゃなぁ「子ども早いことしなはれや、早いことせな、うどん屋行ってしまうで」番頭さんか誰かやろなぁ、丁稚さんにあないして、うどんの注文かいな……。出てきた出てきた丁稚さん。ありがたいこっちゃ注文、注文……、何をしてんねんな? 溝またげてオシッコして。
●子どもやなぁ。用言ぃ付けられてんけども、言ぃ付けられた用より自分の用先に済ましとこちゅうことか、オシッコしてからこっち注文か……、一人前に振ってるがな、うどんの注文……(ガラガラピシャ)かなんなぁ、おのれの用が済んだらスッとしたもんやさかい、肝心の用忘れて入ってしもたがな。
●これぐらいのお店やったら、嘘でも五杯や六杯は買ぉてくれはんねん、うっかりしてるで。こっちから聞きに行こ……。今晩わ、今晩わ
★どなたじゃ?
●へ、うどん屋でございま★うどん屋が、どぉしたな?
●今、聞ぃとりましたら、ご番頭はんでやすかな「早いことしなはれや子ども、早いことせな、うどん屋行ってしまうで」言ぅてくれはりまして、わたし待っとりましたら子どもさん出て来はったんでおますけど、自分の用足しはって注文忘れて帰りはりましたんで……、おうどんは何杯さしてもろたらよろしぃんですかいなぁ?
★あぁ、あれか。あらもぉえぇのじゃ
●おうどんのほぉは?
★いやいや、そやない。うちの子どもはな、夜遅そなったら恐ぉて裏のお手水(ちょおず)へよぉ行きませんのじゃ。いつもおうどん屋さんや何かが通るとな、その明かりを借りてな、オシッコをしますのじゃ。今晩もどぉやら無事に済んだよぉじゃでな、おぉきありがとぉ。
●子どものオシッコに灯ぃ貸したんかいな。おうどんどぉです?
★うちはうどん、皆嫌いじゃ。
●さよか。糞ったれ、しゃ~ないなぁ★いやいや糞やない、ションベンじゃ。
●どぉも場所が悪いわい。ちょっと場所変えよか。
♪うどぉ~んえぇ~ ♪そぉ~やぁう~ッ
●さっぱワヤやがな……、お、どこで呑んできはったんか知らんけど、えらい酔ぉたはるで。あっちぃフラフラ、こっちぃフラフラ、あっち寄ったり、こっち寄ったり、自分入れて九人歩きちゅうねや……。お~ッと危ない大丈夫かいな、だいぶに酔ぉたはるで。
▲♪ちゃ、ちゃ~ん、ちゃんちゃん♪ 雨ぇのぉ~、降るぅ~日ぃわぁ~♪天気ぃ~がぁ~、悪い♪ 兄貴ゃ~、わしよぉ~りぃ~、年ぃ~がぁ~、上♪ちゃ、ちゃ~んの、ちゃんちゃん♪
●けったいな唄うとて……、あんまり相手ならんほぉが……
★う、うどん屋さん
●あ、見つかってもた……。大将、えらいご機嫌でんなぁ
★な、何ですか?
●えらいえぇご機嫌でんなぁ
★何ですか? えらいえぇご機嫌ですねぇ?あぁ~た何ですか、わたしがえぇ機嫌でっているか、悪い機嫌で酔っているか、分かっているのれすか?
●そぉいぅわけやおまへんけど、えぇご機嫌でんがな
★えぇご機嫌ちゅうことないけれどもやね……。ちょっと、一杯くれますか?
●へぇへ、おうどんですか?
★いえ、湯ぅです
●お湯? どぉなさるんで?
★今、そこ歩いてましたらね、溝がありまして、そこへボチャとはまってしもて、足が泥ららけなんれすねぇ。ちょっとお湯をば掛けてくれますか?
●汚れた足洗うために沸かしてる湯やないけれど、うどん屋が湯ぅ無いてなこと言われ……、いえいえ、何でもおません、こっちのこってす。今、掛けさしてもらいますんで、ちょっと待っとぉくれやっしゃ……。ちょっと熱いかも分かりまへんけど……、熱つおました? えらい顔してはる。すぐ慣れはるやろ思います。
●もぉ一杯掛けますんで……、へ、こんなもんで
★おっき、ありがと、すまんこちゃねぇ。ついでに、拭いてくれますか?
●こぉいぅ人があとで食べてくれはんねん……、いえいえ、こっちのこってす。拭かしてもらいます……。へ、こんなもんでどぉだす。
★うどん屋さん、すびばせんねぇ。お陰で綺麗になりました。手拭持っていいこともないんですけろね、あぁ~たので拭いてくれたのれすか? おっきありがとぉ……。一杯くれますか?
●おうどんですか?
★水です
●なかなかうどんにならんなぁ……、おひやですか?
★いぃえ、水です
●せやから、おひやでっしゃろ
★み、ず、で、すぅ
●片意地な人やなぁ……、水のこと「おひや」ちゅうんですけど
★何ですか?水のこと「おひや」ちゅうのですか? あそぉ? そぉ? 水のことおひや?面白いこと聞きましたねぇ。
★ほな、ちょっと尋んねますけど「向こぉ水害でえらい水つきやで」言ぃますけど「向こぉ水害でえらいおひやつきやで」ちゅなこと言ぅのでしょ~か?「淀の川瀬の水車」なんてえぇ唄ございますけど「淀の川瀬のおひや車」ちゅなあるんでしょ~か? うどんやさん。
★そらねぇ、水のこと「おひや」と言わんこともないこともないれすよ。けれどもそれは時と場合によるのれす。おひやといぅのは一流の料亭へ上がって、床柱を背にし、山海の珍味を前へ並べ、上等の酒を十分にいただいたところで。
★「ちょっと喉が乾きましたねぇ(パンパンッ)姐さん」とわたしが呼びますと、白魚を五本並べたよぉな手を前につかえて「旦さん、何かご用で?」「水を持って来てくれたまえ」「おひやどすか?」
★これを、おひやちゅうねん。よぉ覚えときなさい。ゴンボ五本並べたよぉな指ブラブラさして何がおひやじゃ、馬鹿。おっきありがとぉ。す、すびばせんねぇ(クゥクゥ、クゥクゥクゥクゥ、クゥクゥ……)うまい。これ、何ぼですか? え? ただですか? たらなら、もぉ一杯くらさい。
★酔ぉた時に飲む水はうまいですねぇ……。す、すびばせんねぇ(クゥクゥ、クゥクゥクゥクゥ、クゥクゥ……)え? もぉ結構です。そない水ばっかり飲んでられないです。うどん屋さん、寒い中お仕事大変ですねぇ。しかし、奥さんやお子達のために頑張ってくださいねぇ。またいいことありますよ、幸せを祈ります。それではわたしは失礼をいたします。ごきげんよぉ、またお会いしましょ、さよぉなら。
●……、よぉあんなアホなこと言ぃやがったなぁ、とぉとぉうどん食わずじまいやがな。嫌んなってきたなぁホンマにもぉ、今日はろくな晩やないなぁ。イョットショッ。
♪うどぉ~んえぇ~ ♪そぉ~やぁう~ッ
■おい、ちょっと置け。止めてしまえっちゅうてへんがな、いっぺん置けっちゅうねん、札をば。腹減ってへんか? 減ってんねやろ、宵からやってんねんから。今、表、うどん屋流しとぉる、うどん注文してこい。何人おる?俺? 俺要らん宵に油もん食ぅたんじゃ。俺除けて十人か? 芳ッ!
▲へいっ
■うどん十杯注文してこい。言ぅとくで、大きな声出したらあかんぞ。当たり前やないか大きな声で「うどん十杯」「どこですか?」「あの路地の奥です」「……? 明かりが点いたぁんなぁ、こんな時刻まで十人の人間が寄って何しとんねん? ははぁ~ッ、こんなことでもしとんねやないか」痛とぉも無い腹探られても……
■ホンマはしてるんやけれどもや、思われるんも片腹痛いわい。小さな声でそっと、内緒で注文してこい。分かったなぁ
▲へいっ。
♪うどぉ~んえぇ~ ♪そぉ~やぁう~ッ
▲・・・・
●気色悪ぅ~、何や今、クシャクシャちゅうたで。竹やんが言ぅてた狸てこれか……、嫌やで「相撲とろ」言ぃよんねん。わい嫌やがな、狸と相撲とって、ひょっと負けたら格好つかんがな ♪うどぉ~んえぇ~
▲シ~ッ! 大きな声出すな。うどん十杯持って来てんか、この路地の奥や。明かり点いてるやろ、うどん十杯。大きな声出したらあかんで、分かったぁるやろ
●び、ビックリした、あ~、ビックリした。何じゃいなうどんの注文かいな。わしゃまた、狸が出てきたかと思てビックリしたがな。
●狸が出てきたら、キツネこしらえたろ思てんけど……、なぁ、昔からえぇことが言ぅたぁるなぁ「えぇ後は悪い、悪い後はえぇ」今日は宵からろくなお客さんがないと思てたけれども、うどんがいっぺんに十杯も売れるやなんて、まことにありがたいこっちゃなぁ。
●何や知らんけど、大きな声出したらいかんちゅうてなはったなぁ。気ぃ付けて持って行かないかん……
■おぉ、おぉ。いっぺん札を置けっちゅうねん、お前らも好っきゃなぁ。宵からやってんねやないか、止めちゅうてへんがな一服せぇちゅうねん。喧しぃ言ぅな、さっきから戸ぉの外誰か来とぉるよぉな気がすんねんけど、お前らがヤァヤァ言ぅから分かれへんやないか。芳っ、戸ぉ開けてみぃ。
■見てみぃ、うどん屋やないか……。どぉした? えぇ? 注文が出来て持って来てんけれども、この男に大きな声出したらいかん言われてたんで、戸ぉの外から聞こえもせん小さい声で……
■そぉかいな、すまなんだ。脅かしてやりないな、早いこと食ぅたり。おいおい、どっちが大きぃも小さいもあるかいなバカ……、うまいか? うまい?うどん屋、皆うまい言ぅとる……。別に急(せ)かいでも、落とさいでもえぇやないか、良(えぇ)加減に食たらえぇねん。
■食ぅたら、鉢揃えんかい。揃えたら岡持ちの中入れたれ……。うどん屋、表は寒いやろなぁ。わいらこんなことして遊んでるねん。お前の目ぇから見たら腹の立つよぉなことやろけど、若いもんのこっちゃしゃ~ないがな堪忍したって……。代は何ぼや?
■釣は要らん、取っといてくれ。こっち回って来(く)んのは? 初めてか?よし、明日から毎晩こっち回っといで、大抵十人ぐらいの人間寄ってこんなことしてんねん。表冷たいやろけど、精ぇ出しや
●《おっき、ありがとさん》
●ありがたいこっちゃなぁ「明日から毎晩来いよ、十杯ぐらいのうどん毎晩買ぉたる」えぇお得意さんが出来た。われわれ小商人(こあきゅ~ど)は可愛がってもらわないかんわい。
♪うどぉ~んえぇ~ ♪そぉ~やぁう~ッ 大通りへ出ると風がきついなぁ
♪うどぉ~んえぇ~ ♪そぉ~やぁう~ッ
しわがれた小さな声で
★《うどん屋ぁ~、うどん屋ぁ~ッ》
●……? 今晩こんなん流行ったぁんねんなぁ。ありがたいなぁ、またうどんが十杯売れるがな。そぉか、ここらはこんなことして遊ぶよぉな人ばっかり寄ったはるんねんなぁ。ありがたいこっちゃ、今度は向こぉから言われるまでも無い、心得てるわ。
●《おうどんですかぁ?》
★《そや》
●《十杯ですか?》
★《いや、一杯でえぇ》
●《あ、さよか》おかしぃなぁ……、そぉか、味見や。まてまて、お前ら食ぅてもえぇけど初めてのうどん屋らしぃ。ひょっと不味かったらどぉすんねん、わいがまず一杯食ぅてみて、うまかったらお前らもみな食え……。うまいこといったら十一杯売れるがな。
●《お待ちどぉさんでした》
★《できた? おっき、ありがと。うまそぉやな……(フッ、フゥ、ズズゥ~……)えぇダシ使こてるなぁうまい(ズッ、ズゥ~)カマボコも厚ぅ切ってるなぁ、コリコリしてうまい(ズズゥ~、ズズゥ~、ズズゥ~、ズズゥ~……)うまかった、おっきごっつぉさん》
●《お粗末さまでした》
★《何ぼや……? そぉか渡しとこ》
●《おっき、ありがとさんで》
★《うどん屋、また明日もおいでや》
●《おっき、ありがとさん》
★《うどん屋》
●《へぇ?》
★《お前も、風邪ひぃてんのんか?》
風邪うどんというネタですが、もう面白い。
ぜひ枝雀で聞いていただきたい上方の落語です。
江戸の小噺 十と五つ
落語の方にも『粗忽長屋』なんてぇ話があります。
粗忽というのはよく笑いの種になります。
「おぅい、八五郎、てめぇのカカアが家の四階から落ちたらしいぞ。」
と、仲間が地上から呼びかけます。
仲間が言うか言わずかのうちに、やっこさん、自分の働いていた五階建てのビルの三階から落ちるように降りてきて、バイクにまたがって家に帰ります。
10kmほどきたところで気づきます。
「はて、俺んちは長屋だ。四階から落ちるわけがねぇ。」
また10kmほどきたところで気づきます。
「そういやあ、俺は独身だった。」
よしゃあいいのに、さらに10kmほど来たところで気づきます。
「あ、俺は八五郎じゃなかった。」
まぁ、粗忽というのはこういうことでございます。
こういうやつだからまた噺にもなるのですが。
熊の胆
世の中には、よくそそっかしい、なんてぇ連中がおりまして、このそそっかしいやつが、 並んで住んでいるってぇと、もう大騒ぎでありまして。
八五郎「おおう、よしねぇな。」
熊五郎「よしねぇって、何を。」
八五郎「何をって、俺がここんとこを、裸足でばーっとかけて止めにへぇるような、あ、そうだ、お前、夫婦げんかおよしよ、みっともない。」
熊五郎「夫婦げんか、やらないよ。」
八五郎「やった。」
熊五郎「やらない。」
八五郎「やった。」
熊五郎「できない、俺一人もんだから。」
八五郎「あ、そうか、お前一人もんだったな、でも、ちょっとだけやったろ。」
熊五郎「ちょっとだけもなにも、一人なんだからできないよ。」
八五郎「でもなんだぜ、俺が今うちにいると、おめぇんとこで、なんじゃあねぇか、このかかぁ、出てけ、なんてったぜ。」
熊五郎「ああ、あれか、あれはそうじゃあねぇんだよ、今な、俺がここの玄関とこ、きれいに掃除すると、そこへあいつがへえってきやがったんだ。」
八五郎「誰。」
熊五郎「いや、誰ってぇほどまとまっちゃいねぇんだよ、このだぁ、みてぇのがな、挨拶もなんにもなしによ、ぬーっとへえってきやがってな。」
八五郎「うん、どんなやつ。」
熊五郎「どんなやつって、この町内によくいるよ、四つ脚で、このひげがあって、しっぽがあって。」
八五郎「ああ、ねずみか。」
熊五郎「ねずみよりもっと大きいよ。」
八五郎「じゃあ象か。」
熊五郎「この野郎、いっぺんに大きくするなよ、象がこんなとこへえってくる訳ねぇじゃあねぇか、象よりもっと小さいよ。」
八五郎「ああ、猫か。」
熊五郎「ねこー、っと、この野郎そばまでいってて言わねぇな、猫にもよく似てらぁ。」
八五郎「じゃあ、もぐら。」
熊五郎「もぐらじゃねぇ、あの、犬。」
八五郎「なんだ犬か。」
熊五郎「うん、大きな赤い犬が、ぬーっとへえって来るてぇとな、俺がせっかく玄関きれいにしたとこへ、馬糞してきやがった。」
八五郎「犬のくせに、馬糞したかなぁ。」
熊五郎「うん、あんまりきたねぇ畜生だから、俺、この赤でてけ、ってったんだ。」
八五郎「ああ、赤出てけったのか、俺ぁかかぁ出てけと間違えた。」
熊五郎「そうだよ。」
八五郎「いねぇな。」
熊五郎「犬か、もうそんなのとっくにどっか行っちゃったよ。」
八五郎「そうか、そりゃ残念な事したなぁ、俺がいりゃ、そんな犬の野郎とっつかめぇてな、たたき殺して、その犬から、熊の胆取ってやんだけど。」
熊五郎「おめぇもそそっかしいな、犬から熊の胆が取れるか、鹿とまちげぇんな。」
粗忽ものというのは、これで話が通じてるんだからわからないもので、これでいてなかなか仲がいいなんて。
江戸の小噺 十と四つ
人生で一番幸せな日
まもなく結婚する男のところへ、彼の友人が訪ねてきて、握手をしながらこう言った。
男1 「おめでとう、わが友よ。今日こそ君の生涯で最も幸せな日だ。」
男2 「でも、結婚式は明日だぜ?」
そう答えると、
男1 「知ってるよ。」
その友人は答そうえた。
男1 「だから、今日が一番幸せな日なのさ。
まったくもって、何が幸せか、わかりませんね。だから結婚もしてみないとわからないです♫
幸せを探そうじゃありませんか。
火事の息子
昔は、火事がたいへん多ございまして、江戸残らず焼いたなんてぇ事もあったんだそう でございますが、ただ今は、消防が行き届いておりまして、そう大火はございません、火 事の夫婦が相談をしまして。
火事の夫「このごろは、消防が行き届いて、いまいましいったらありゃあしねぇ、俺たち 商売上がったりじゃねぇか、燃え上がる事が出来やしねぇ、俺はな、明日あたり 田舎の方へ行って、燃え上がってやろうと思うんだよ。」
火事の女房「ああ、お前さん、それがいいよ、田舎の方へ行って燃え上がれば。」
なんてんで、火事の夫婦が相談をしてますと、そばから、子供が。
火事の子供「坊や(小火)もいっしょに行くよ。」
なんてんで、小火までなくなってしまったそうです。
寒くなってまいりました。
くれぐれも火の始末はきちんとしていただきますよう。
江戸の小噺 十と三つ
丁稚奉公
昔は丁稚奉公に出して商いを覚えさせて、奉公明けに自分の商いをしたり、
のれんを分けてもらったりして商いをしたもんです。
ある子供が丁稚奉公に出ることになり、お店の主人とはじめての面談をすることになりました。
、
主人「家業はなにか?」
子供「へい、か・き・く・け・こ、です。」
まぁ、子供というのは素直が一番ですな。
木火土金水
八五郎「ねぇ、隠居、世の中のものは、すべて木火土金水(もくかどこんすい)から割り出されている、てぇ事を聞いたんですけど、本当ですか。」
隠居 「ああ、そう言う事を言うな。」
八五郎「じゃ、泥棒なんてぇのも、木火土金水から割り出されているんですか。」
隠居 「ああ、そうだとも、まず、どろ・ぼう、と言うくらいだから、土と木に縁がある。」
八五郎「はあはあ。」
隠居 「泥棒は白波とも言うだろ、波と言うくらいだから、水にも縁がある、それにひるトンビとも言うから、火にも縁があるな。」
八五郎「最後のひ・るトンビ、ってぇのは苦しいけど、ちゃんと木火土金水から割り出さ れてるんですねぇ、泥棒で土と木、白波で水、ひるトンビで火と、ね、あれ、隠居、 これじゃあ、木・火・土・水ですよ、ひとつ足りませんよ、金(きん)がありませ んよ、金(きん)、金(かね)はどこへいっちまったんですか。」
隠居 「なぁに、金(かね)が無いから、泥棒をするのだ。」
うまいこと言ったもので。
でも、盗んじゃいけません。ちゃんとお金を払って買い物しましょう。
今日のところはこんなところで。
江戸の小噺 十と二つ
【蛸(たこ)】
蛸がこう、あまりの暑さに,橋の下へ出て,昼寝をしているおりまして。
そうしましたら、この蛸を猫が見つけましてな。
足を七本食べてしまいました。
一本だけ残しておいたんですな。
蛸が目をさましましたら、さあ大変、足がない。
「名無三(しまった)、足を食われてしまった。ちくしょう」と。
ふと見ますと、猫がそら寝いりをしているじゃないですか。
蛸、あの猫が足を食べたに違いないと思い、仕返しをしてやろうと
残った一本の足で、猫をじゃらしなが海へおびき出そうとするんですな。
そうしましたら、猫が
「その手は喰わん。」
蛸、おいしいですよね。本日もよろしくお願いします。
猫
ある商家の旦那がお得意先から可愛い子猫をもらって来た。
旦那 「番頭さん、この猫に名前をつけてやっとくれ」
番頭 「強そうな名前で弁慶はどうでしょう」
旦那 「そうか、じゃあ弁慶としよう」
定吉 「弁慶よりもっと強いものがあります。牛若丸の方が強いです」」
旦那 「じゃあ、牛若丸といしよう」
亀吉 「牛若丸より鞍馬の天狗の方が強いです」
旦那 「なるほど、じゃあ天狗だ」
お清 「天狗さんが羽を休める杉の木の方が強うございます」
旦那 「うん、杉にしよう」
松吉 「杉よりもそれをなぎ倒す風の方が強いです」
旦那 「そうだな、風か」
亀吉 「風は塀が止めます」
旦那 「それじゃ、塀だ」
お茂 「塀よりもそれに穴を開ける鼠に方が強うございます」
旦那 「そうか、この猫の名前は鼠か」
奥さん 「鼠より猫の方が強いです」
旦那 「そんなら、やっぱりこの猫の名はネコじゃ」
どこかで聞いたような話です。
やはり猫は強うございます。
また、かわいらしいんですよね、ヘルメットをかぶったはちわれなんかは。
なんの噺かわかりませんが。
本日はこんなところで。
上方落語 小噺
上方の落語は、落ちが分かりやすくなっているようにも思いますが、その分きっちりと笑かしてくれます。
そこが面白い。
ちょっと小噺でつないどきますね。
これは丁稚さんに限らず我々でもそぉですわ、あれは癖になりますねぇ、あのお通じといぅやつは。夜中に行くといぅ習慣ができると、もぉ必ず夜中に、その時間になったら行きとなりまんねんあれ、難儀なもんですわ。
その丁稚さんが毎晩まいばん、夜中にもぉ眠たい目ぇこすりながらお手水へ行く癖がついてしもたら、やっぱり先輩が教えてくれるんですなぁ。
「そぉいぅ時にはマジナイがある。夜中行ってそのお手水、用足す時に下のほぉを見て『明晩から、よぉ参じまへん』と、こない言ぃ。ほな明日から、その次の晩から、その時刻がきても催さんよぉになるんや、こらマジナイや」
「えぇこと教えてもらいました」ちゅうて、その子ども衆(し)さん、トイレ行ってでんなぁ、昔の商家の便所ちゅな夜は真っ暗で恐いもんですわいな、目ぇこすりながら教せてもぉたとぉり、
●明晩からよぉ参じまへん
▲そぉ言わんとまたおいで
●ギャァ~~ッ!
こら腰抜かしますわいな、ビックリ仰天して、さぁ家中のものが来たけれども別に何もない「そら寝ぼけてたんや」ちゅうて次の日ぃ「もぉよぉ行かん恐い」ちゅうのを「まぁわしが付いて行たるさかい」
●明晩からよぉ参じまへん
▲そぉ言わんとまたおいで。
みんな聞ぃた、さぁこぉなるとえらいことでございます。加持祈祷やとかやってもろぉてもなかなかこれが収まらん「どぉしたらえぇやろ?」といぅと、やっぱり町内に事の分かった年寄り、何でも知ってる年寄りちゅうのがおりまんねん。
落語に出てくる甚兵衛はんみたいなやつが、この、どこの町内にもおるんですなぁ「わしが見てやろぉ」ちゅうわけでやって来て、ズ~ッと調べる。
落とし紙が積んであります「これは?」っと見たら、これが証文やとか帳面の古なったやつをこぉ適当な大きさに切って、もったいないちゅうわけで、それをこぉ落とし紙に使こてたんですなぁ。
■これを落とし紙に使こてんのか?
▲そぉでんねん
■これがいかんがな、これが言ぃよったに違いない
▲何ででんねん?
■書いたもんがもの言ぅがな。
春団治師匠も良かったですよ。