高富屋のネタ帳

小噺ネタを上げます。落語が好き!!

江戸の小噺 十と五つ

落語の方にも『粗忽長屋』なんてぇ話があります。
粗忽というのはよく笑いの種になります。

 

「おぅい、八五郎、てめぇのカカアが家の四階から落ちたらしいぞ。」

と、仲間が地上から呼びかけます。

 仲間が言うか言わずかのうちに、やっこさん、自分の働いていた五階建てのビルの三階から落ちるように降りてきて、バイクにまたがって家に帰ります。
10kmほどきたところで気づきます。

「はて、俺んちは長屋だ。四階から落ちるわけがねぇ。」

また10kmほどきたところで気づきます。

「そういやあ、俺は独身だった。」

よしゃあいいのに、さらに10kmほど来たところで気づきます。

「あ、俺は八五郎じゃなかった。」

 

まぁ、粗忽というのはこういうことでございます。

こういうやつだからまた噺にもなるのですが。

 

 

 

熊の胆

 世の中には、よくそそっかしい、なんてぇ連中がおりまして、このそそっかしいやつが、 並んで住んでいるってぇと、もう大騒ぎでありまして。


八五郎「おおう、よしねぇな。」
熊五郎「よしねぇって、何を。」
八五郎「何をって、俺がここんとこを、裸足でばーっとかけて止めにへぇるような、あ、そうだ、お前、夫婦げんかおよしよ、みっともない。」
熊五郎「夫婦げんか、やらないよ。」
八五郎「やった。」
熊五郎「やらない。」
八五郎「やった。」
熊五郎「できない、俺一人もんだから。」
八五郎「あ、そうか、お前一人もんだったな、でも、ちょっとだけやったろ。」
熊五郎「ちょっとだけもなにも、一人なんだからできないよ。」
八五郎「でもなんだぜ、俺が今うちにいると、おめぇんとこで、なんじゃあねぇか、このかかぁ、出てけ、なんてったぜ。」
熊五郎「ああ、あれか、あれはそうじゃあねぇんだよ、今な、俺がここの玄関とこ、きれいに掃除すると、そこへあいつがへえってきやがったんだ。」
八五郎「誰。」
熊五郎「いや、誰ってぇほどまとまっちゃいねぇんだよ、このだぁ、みてぇのがな、挨拶もなんにもなしによ、ぬーっとへえってきやがってな。」
八五郎「うん、どんなやつ。」
熊五郎「どんなやつって、この町内によくいるよ、四つ脚で、このひげがあって、しっぽがあって。」
八五郎「ああ、ねずみか。」
熊五郎「ねずみよりもっと大きいよ。」
八五郎「じゃあ象か。」
熊五郎「この野郎、いっぺんに大きくするなよ、象がこんなとこへえってくる訳ねぇじゃあねぇか、象よりもっと小さいよ。」
八五郎「ああ、猫か。」
熊五郎「ねこー、っと、この野郎そばまでいってて言わねぇな、猫にもよく似てらぁ。」
八五郎「じゃあ、もぐら。」
熊五郎「もぐらじゃねぇ、あの、犬。」
八五郎「なんだ犬か。」
熊五郎「うん、大きな赤い犬が、ぬーっとへえって来るてぇとな、俺がせっかく玄関きれいにしたとこへ、馬糞してきやがった。」
八五郎「犬のくせに、馬糞したかなぁ。」
熊五郎「うん、あんまりきたねぇ畜生だから、俺、この赤でてけ、ってったんだ。」
八五郎「ああ、赤出てけったのか、俺ぁかかぁ出てけと間違えた。」
熊五郎「そうだよ。」
八五郎「いねぇな。」
熊五郎「犬か、もうそんなのとっくにどっか行っちゃったよ。」
八五郎「そうか、そりゃ残念な事したなぁ、俺がいりゃ、そんな犬の野郎とっつかめぇてな、たたき殺して、その犬から、熊の胆取ってやんだけど。」
熊五郎「おめぇもそそっかしいな、犬から熊の胆が取れるか、鹿とまちげぇんな。」

 

粗忽ものというのは、これで話が通じてるんだからわからないもので、これでいてなかなか仲がいいなんて。