江戸の小噺 九つ目
ねずみの嫁
ねずみのお嫁さんが、嫁ぎ先から、実家の方へ戻ってきてしまいましたので、お母さんが大変心配しまして。
お母さん「どうしたんだい、どうして、帰ってきちゃったんだい。」
お嫁さん「向こうのお舅さんがねぇ。」
お母さん「やかましいのかい。」
お嫁さん「やさしすぎるのよ。」
お母さん「やさしいなんて、そりゃいいことじゃないかい。」
お嫁さん「だってぇ、猫撫で声。」
ということで、本日もたくさんの方に楽しんでいただきます♫
舅さんの猫撫で声には下心を感じますねぇ。
さて、江戸には面白い商いがあったもので、こう、通りを商いの声を上げながら行ったものらしいです。
お互いの商いが都合よくないものもあったりして、まぁ喧嘩になりかけたりするもんです。
江戸っ子なんて喧嘩っ早いと決まってるらしいですが、中には仲裁するのも出てきます。
下金屋
昔は、いろいろなものを売ります時に、売り声、なんてぇのを使って売りましたもので。
いわし屋「おお、いわしこぉ、おお、いわしこぉ。」
ふるい屋「ふるーい、ふるいふるい。」
いわし屋「何言いやがんでぇ、今朝河岸から買ってきたばかりだ、ぴんぴんしてんだぞ、古いとはなにごとだ。」
ふるい屋「いや、あたしはあなたの品物が古いって言ってるんじゃない、あたしは、このふるいを売っている、生粋のふるい屋だ。」
いわし屋「ふるい屋だぁ、妙な商売がきやがったなぁ、俺は生物扱ってるんじゃねぇか、その後から、ふるいふるいっていやぁ、俺の品物が古いように聞こえるじゃねぇ
か、先やれ。」
ふるい屋「先でも後でも、あたしはこれさえ売ればいいんだから。」
いわし屋「先やれよ。」
ふるい屋「へい、ふるーい、ふるいふるい。」
いわし屋「いわーし、駄目だよ、古いいわしになっちゃうよ、他回らねぇと、はったおすぞ。」
下金屋「おいおい、お待ちお待ち、手商人が往来で喧嘩しちゃあいれない、お互いのお得意様しくじっちゃうじゃあないか、どうして、喧嘩するんだい。」
いわし屋「喧嘩したくないけども、喧嘩になっちゃうんだ。」
下金屋「なっちゃうって事はないだろう、どうしてだい。」
いわし屋「俺が、こわしこぉ、ってぇと、こいつが後から追っかけてきやがって、ふるいふるいってやがる。」
下金屋「お前さんは、何を売ってるの。」
ふるい屋「あたしは、この、ふるいを売って歩いてる、ふるい屋。」
下金屋「これは、面白い商売が落ち合ったな、生物の後からふるいふるいは、気に触るだろ、どうだい、仲裁人は時の氏神ってぇ事を言う、あたしにお前さんたちの仲、保
たせないか。」
いわし屋「お前さん、商売はなんだい。」
下金屋「下金屋だ。」
いわし屋「下金屋。」
下金屋「うん、売るんじゃあない、方々様から、いらなくなった金物類を、買って集める商売だ。」
いわし屋「なんだか知らないけど、お前さんの売り声で、上手くいくの。」
下金屋「あたしの売り声を聞いてごらん、まるぅく収まる。」
いわし屋「なんだか知らないけど、頼むよ、おー、いわしこぉ、おー、いわしこぉ。」
ふるい屋「ふるーい、ふるいふるい。」
ってぇと、後から下金屋さんが。
下金屋「ええ、ふるかねぇ。」
取り消して歩いたそうで。
下金屋なんてぇのは、今は全く聞きませんが、要するにくず鉄を集めて、それを売ってる商売です。まぁ、商いがうまくいきゃぁ誰も文句はないわけで、これはこれで丸く収まってます。